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霖雨に濡れる古の声

2012/05/13 07:00

 

 

 

 

 

 

 

静寂の上澄みの静寂に霖雨が音もなく満ち、室はいつしか外から森を見遣る格好になり、私の輪郭が和らいで遍く森に拡がる気配を見せた時、古の歌がそう聞かれるべき声なき声をもって聞かれたように思えた。

 

 

かくのみし恋ひや渡らむ秋津野にたなびく雲の過ぐとはなしに  大伴宿禰千室(万葉集 巻第四)

 

 

 

 

 

[昨日の読書]

古井由吉 『明けの赤馬』(1985)『槿(あさがお)』(1983、『自撰作品 五』所収) 

 

[昨日の音楽]

エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ 『ザ・デリヴァリー・マン』(2004)

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: 芸術の霞みを食わんと汗をかく

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かさねさんの帰郷

2012/05/12 07:00

 

 

かさねさんは、

 

 

 

 

 

 

やっぱりここが大好き。

 

 

 

 

 

[今週の読書]

新約聖書 『マルコによる福音書』『マタイによる福音書』

古井由吉 『明けの赤馬』(1985) 

 

[今週の音楽]

エルヴィス・コステロ 『ノース』(2003)

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: かさねかさねる日々のなか

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遠く、とだけしか言えない遠く

2012/05/07 07:00

 

 

どこから来るとも知れない音が夜中に響く土地があって、病人と年寄りにだけ聞こえるそうなの、とある日はうつらうつらとしていたのが目をひらくと、途切れた話をつなぐようにした。だいぶ離れたところを流れる川の音だと言う人もあれば、もっと遠い山を越える風の音だと言う人もあって、天を何かが渡る音とも、地の底で何かが動く音とも……男の人に抱かれる女の人の耳にも聞こえることがあるらしくて、とつぶやいてまた眠った。

(古井由吉「掌中の針」(『やすらい花』所収)) 

 

 

遠くへ、遠くへ、と尽きた彼女の声が、今も尽き続けている。

彼女の手を引いていた筈が、いつしか彼女に手を引かれて、どこかへ、彼女しか知らない遠くへ。

昨日も、今日も、明日も、彼女の声は、棚引く今のなかで尽き続けている。

 

 

 

 

[昨日の読書]

新約聖書 『マタイによる福音書』

 

[昨日の音楽]

ジョン・ケール,ルー・リード 『ソングス・フォー・ドレラ』(1990)

 

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: 我を憐れむ生き物か

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A still day for the perfect moment

2012/05/06 07:00

 

 

Oh,it's such perfect day,I'm glad spend it with you.

Oh,such perfect day,You just keep me hanging on,you just keep me hanging on......

 

Lou Reed "Perfect Day" from Transformer(1972)

 

 

 

 

 

 

全き一日ではなかったとしても、その亡骸の幽き声が、全き時を仄かに照らすことになるのかもしれない。

 

 

 

 

 

賢しみと物いふよりは酒飲みて酔泣きするしまさりたるらし(万葉集 巻第三)

 

なぜなら、

 

世間を何に譬えむ朝びらき漕ぎ去にし船の跡なきがごと(万葉集 巻第三)

 

だもんね、どうせ。

 

 

 

 

 

[昨日の読書]

ポール・ヴァレリー 『コロナ/コロニラ』

 

[昨日の音楽]

ルー・リード 『トランスフォーマー』(1972)

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: 匂いに誘われふらふらと

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風わたる野辺のかそけき声々の死人と思えばわれの声かも

2012/05/05 07:00

 

 

夜明け頃に、初めも終りもおぼろに、抱きあうことがあった。情欲もかすれて、ただ肌をもとめて、触れあうほどにたよりなく、いつまでも去りがたい、影のようなまじわりだった。

(古井由吉 『仮往生伝試文』(1989)) 

 

 

 

 

 

 

長い間待っていた末に、男がそばにいた。よろこんですがりつくと、男こそ死人だったと分かった。それでも女はそれがうれしい発見でもあるように、そうだったの、道理で、あなたは死んでいたの、一緒にいた時からそうだったのね、……

(古井由吉 『仮往生伝試文』(1989))

 

 

死と生の二重写しは、やがてひとつの像を結び、そして淡く暈けたところから練色の滴がひとつ、またひとつと滴り、どこへも落ちないところからただひとつの、何色でもない色の靄が永遠の生となって、絶対の静謐を湛えて涯なく満ちる……。 

 

 

高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに(万葉集 巻第二)

 

 

 

 

 

[今週の読書]

『万葉集』巻第四~第五(『万葉集(一)』(講談社文庫)所収)

 

[今週の音楽]

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド 『ローデッド』(1970)

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: すべて集まりすべて散りゆく

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あなたは、尽きて、美しい

2012/04/29 07:00

 

 

 

 

 

 

 

尽きる間際で幽かに匂い立つ彼女は、何にも増して、誰にも増して、いま、ここから遠く離れて美しい。

 

 

 

 

 

[昨日の読書]

『万葉集』巻第三(『万葉集(一)』(講談社文庫)所収) 

 

[昨日の音楽]

ジョイ・ディヴィジョン 『クローサー』(1980)

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: すべて集まりすべて散りゆく

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子供は、暮れに、土手道を

2012/04/28 07:00

 

 

 

低い雲の下を風で浚われて見捨てられた町を、母の胎のなかですでに見捨てられた子供が、愛されることも愛することも知らず、ひとり当て所なく歩いていた。限りある土手を恨みながら、それでも辿る所はそこしかなく、涯のない涯の風景に憧れて、限りある空間のなか、限りない時間のなか、家の灯を背に、ひとりいつまでも歩いていた。

 

 

子供は今も、あの土手道を歩き続けている。縋る手もなく、愛されることも愛することも辞み、寄る辺なく、当て所なく、何とも知れぬ何故にとも知れぬ、悲しみと憧れだけに深くを揺らし、いつまでも、いつまでも、どこまでも、どこまでも。

 

 

子供は今日も歩いている。土手道の上を、子供にとっては世界の涯にも等しい、あの湖の汀に憧れて。

 

 

 

 

 

[今週の読書]

新約聖書 『使徒行伝』(『ルカ文書』所収)

『万葉集』巻第一〜第二(『万葉集(一)』(講談社文庫)所収)

 

[今週の音楽]

ジョイ・ディヴィジョン 『アンノウン・プレジャーズ』(1979)

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: 我を憐れむ生き物か

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久遠の殯

2012/04/22 08:45

 

 

凄艶の窮みへ果てたところで花の吐息が漏れ、大気の震えが止み、温い大気のなかに冬の澱が析出し、灰色の静寂が立ち竦んだ。

(感情を洗われて、唇に紅を引いただけで、薄衣を纏い、わたしはただそこにいました)

 

 

おもむろに静寂が桜まじと揺らぎ、冬の塵埃を吹きさらい、花びらは乱れ散り、辺りは桜色に濁った。

世界は一度は尽きてしまったのだ。

(ほんとうに、ほんとうに、わたしはひとりでした) 

 

 

 

誰にも見られていなかった、誰にも聞かれていなかった、あの瞬間は永劫であったのに。

(見ていました、聞いていました、わたしのすべてを尽くして)

 

  

 

世では、人間の関与できぬ手によって、瞬間たちの殯が終わることなく営まれ続ける。

声のない弔歌が棚引くなか、涙の涸れた淡い視線で見送られつつ。

(杳緲の野辺で、わたしが尽きてしまうまで)

 

 

 

 

 

[昨日の読書]

新約聖書 『使徒行伝』(『ルカ文書』所収)

 

[昨日の音楽]

Jane Birkin Amours des Feintes(1990) 

 

 

カテゴリ: 本・アート    フォルダ: すべて集まりすべて散りゆく

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消尽の涯

2012/04/21 07:00

 

 

私を愛してください……

 

 

 私のなかにあなたを尽くしてください……

 

 

  私もあなたを愛します……

 

 

   あなたのなかに私を尽くします……

 

 

    あなたも私も喪われて、ただ愛するだけになるまで尽くしましょう……

 

 

     愛することの涯で生に尽きましょう……

 

 

      山間の湖の汀に横たわり、鈍色の波に白々と洗われる遺骨のように。

 

 

 

 

 

[今週の読書]

古井由吉 『仮往生伝試文』(『自撰作品 六』所収)(1989)

古井由吉 『長い町の眠り』(1989) 

新約聖書 『ルカによる福音書』(『ルカ文書』所収)

 

[今週の音楽]

Jane Birkin La Chanson de Slogan(1969)

 

 

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過去の滴り

2012/04/15 07:00

 

 

今思い返してみると、あの旅の宿にあっても、何かが思い返されていた。 

 

 

時の流れにおける私というのは、入れ子杯のようなものなのかもしれない。 

 

 

既に記憶である山吹色の液体が、現在である一番上の杯に注がれると、すぐに溢れてその下の杯へ、さらに下の杯へ、さらに下の……。 

 

 

溢れる上澄みはいつも豊穣で、それは常に現在から失われ続ける。 

 

 

しかし、過去を、現在を、誰が名付け得よう。 

 

 

長い睦みの後で、その背は声を、震えを、匂いを 集めて静まり、白い光を湛えて澄んでいた。

閨の外に拡がる枯れた暗い田園を見遣る目は、紫を帯びた曙光に淡く濡れていた。

言葉が交わされることもなく、沈黙が語られることもなく、私たちは夜の幽かな残響となって静寂のなかに揺らめいていた。

石油ストーブの上で鳴る薬缶の蓋の音と、部屋に丸く行き渡ったストーブの温みが、部屋の静寂に漣を立て、明け初めの盆地の藍色の静寂に溶けていった。

秋の尽きたところですべてが安らう灰色の静寂を集めて、永劫を拡げる彼女の白い背は静謐の盆地そのものだった。

 

 

 

 

 

[昨日の読書]

古井由吉 『仮往生伝試文』(『自撰作品 六』所収)(1989)

 

[昨日の音楽]

東京事変  『東京コレクション』(2012)

 

 

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